【注意】感電します!
前回製作した汎用HIDランプ安定器のバリエーションとなる電子式HIDランプ安定器の製作です。小型、特に70W以下のセラミックメタルハライドランプは、その性能を引き出すため電子安定器で点灯するように設計されています。しかし、15~20Wといった超小型ランプはあまり普及せずに終わり、単体の安定器は殆ど手に入りません。したがって、これらのレアなHIDランプを点灯するには安定器を自作(または既製品を改造)する必要があるのです。そこで、今回は15~20Wクラスの超小型メタルハライドランプへの対応を意識して新たに電子安定器を設計してみました。また、一般の電球コレクターでも電子工作の腕があれば手軽に製作できるようにするため、なるべくシンプルな構成になるよう回路を簡略化しています。
機能上は前回と全く同じなので、HIDランプの基本や電子安定器のしくみについての解説は、前の記事を参照してください。
基本機能は前回製作したHIDランプ安定器に倣います。対応するランプ電力は15~50Wとし、G8.5クラスの小型HIDランプを中心にカバーします。今回製作した電子安定器の仕様を表1に示します。
| 対応ランプ | メタルハライドランプ, 高圧ナトリウムランプ, 水銀ランプ, (低圧ナトリウムランプ, 蛍光ランプ) |
| ランプ電力(POUT) | 15~50W, 最大8プリセット |
| ランプ電流(IOUT) | 最大0.8A |
| 無負荷出力電圧(VOUT) | 280~320V |
| 始動パルス電圧(VIGN) | 3kVPK以上 |
| コントローラ | STM32L010 |
| 電源入力(VIN) | AC 110~120/220~240V (切り替え式), 50~60Hz |
| 効率(η) | 約91% (Vi = 115V, Po = 50W, 実測) |
| 力率(PF) | 約58% (Vi = 115V, Po = 50W, 実測) |
前回のプロジェクトとの間での大きな違いは、回路の簡略化と小型化のためPFC機能を省略して従来型のコンデンサインプット式としたことです。このため、入力力率は悪いものとなります。入力電圧の設定は100V系または200V系をスイッチで選択する方式となります。なお、定格5W以上の一般照明機器は JIS C 61000-3-2 で規定されるクラスC機器に該当し、特に25W超ではPFC機能が必須になります。でも、今回は実験プロジェクトで消費電力も小さいこともあり、目をつぶることにします。

今回のプロジェクトではPFC機能を省略して、昔ながらのコンデンサインプット式整流回路としています。この入力回路の特徴としては、バス電圧が入力電圧に直接依存することで、入力電圧をユニバーサル対応とした場合、バス電圧は120~370Vと大幅に変動することになります。しかし、一般的なHIDランプ電子安定器の構成では、300~400Vのバス電圧が必要になるため、100V系電源ではバス電圧が不足してしまいます。このため、100V系電源では倍電圧整流、200V系電源ではブリッジ整流とそれぞれ切り替えられるようにしました。整流モードは図1に示すようにスイッチで切り替えることができます。これは、昔の自作PCでおなじみの二電圧対応電源で多用されていた方式です。

このブロックは、バス電圧を降圧してランプに供給すると共に、ランプ電流を制御する安定器としての機能を持ちます。図2に降圧コンバータの制御図を示します。
降圧コンバータの制御モードは定電力制御となっていて、出力電流だけでなく出力電圧もフィードバックしてカスケード制御としています。ランプ電流制御(マイナーループ)は高速に制御する必要があるので、フィードバック要素の各係数をチューニングできるようにしています。ランプ電力制御(メジャーループ)は精密である必要がありますが、それほど高速な応答は求められません。電力制御があまり速すぎると電流制御と干渉して不安定となり、ちらつきの原因にもなります。このため、電力制御はI制御のみとしています。
アイドルモード(放電開始前で出力電圧が飽和状態)では電流制御を停止して特定のタイミングのPWMを出力するようにしています。これは、常にインダクタのフリーホイール動作(スイッチノードの電圧が0に落ちる)を確保してゲートドライバのブートストラップキャパシタの充電を保つためです。ブリーダ抵抗R11はこれと初期の充電電流のパスのために設けています。制御図にはありませんが、ブレークダウンにより出力電圧低下が低下してアイドルモードを解除する瞬間に、一定時間無制御で大きな電流を流してアーク放電移行の安定を図っています。無制御と言ってもゲートドライバのトリップ機能でピーク電流が制限されるので、壊れることはありません。
ランプ電力や各制御パラメータなどは数種類プリセットしておいて、点灯するランプに応じてロータリスイッチで簡単に切り換えできるようにしています。


図3にランプ駆動部の回路、図4にはコンバータ部の動作波形を示します。L2は、コアにB66317GX187/gap=0.3mm、巻線に0.5mm UEW/120Tで、L = 2mH, ISAT = 1.5Aというスペックです。同等のスペックのものなら既製品のパワーインダクタでもかまいません。回路図中の色文字は、動作波形のプローブポイントに対応しています(C1=A出力電圧, C4=Bインダクタ電流, C2=C出力電流)。出力に現れる2.5ms周期のリプルは、インバータのスイッチングとイグナイタのインダクタンスによる電流制御の乱れによるものです。インダクタ電流の波形がノイジーなのは、使用した電流センサのS/Nが悪いためです。
一般照明用HIDランプの電極は全て対称構造となっていて、交流駆動が基本です。このため、降圧コンバータの直流出力は、Hブリッジインバータで交流に変換されランプに供給されます。インバータのスイッチング周波数は、通常100~数百Hzの範囲に設定されます。これは直列にイグナイタ(インダクタンス)が挿入されることおよび音響的共鳴現象の防止の点から、あまり高くすることができないためです。このプロジェクトでは標準的な200Hz交流駆動としました。交流といっても矩形波なので、ランプ効率は直流駆動並に高くフリッカもありません。

ランプ放電開始前(つまり無負荷)の状態では、出力電圧は飽和レベル(250~300V)に貼り付きます。180V以上ではサイダック(VB = 360V)がトリガを開始し、イグニッショントランスT1の一次側には、インバータのスイッチングに同期してパルス電流が流れます。トランスの二次側はランプに直列に挿入されているので、インバータ出力にイグニッションパルスの重畳された電圧波形がランプに印加されることになります。
JIS C 7623では代表的なHIDランプ仕様の中に電子安定器の仕様も示されていて、イグニッションパルスのピーク値や累積パルス幅の基準値が示されています。それによると、多くのランプにおいてパルスのピーク値は少なくとも3kV、かつ安全上の理由から5kV以下とされています。累積パルス幅とは、良好な始動性を得るのに必要なパルス密度(単位時間当たりのパルス幅の累積値)のことで、多くは100μs/s以上とされています。電極間の絶縁破壊が起こるのは、高電圧の印加とイオン発生(宇宙線によってランダムに起こる)が重なった瞬間なので、特に小さな放電管においては速やかに放電開始するためある程度のパルス密度が必要になるのです。
T1がイグニッショントランスで、コアにPC40EI25-Z/gap=0.2mm、一次側に0.4mm ETFE線/8T(13μH)、二次側に0.5mm ETFE線/70T(1mH)としています。図5に出力パルスの波形(無負荷時)を示します。パルス電圧は配線の浮遊容量で減衰するので、電子安定器の仕様で最大配線長(1.5~2m程度が多い)が設定されています。この回路の場合、パルスピーク値は4kV以上、パルス密度は160μs/s程度となりました。イグナイタに対しては特にON/OFF制御は行っていませんが、ランプが放電を開始するとランプ電圧が下がるので、サイダックはOFF状態を保ち自然にパルス出力は停止します。

HIDランプは寿命末期に異常な動作を示すことがあり、その場合は安全に停止しなければなりません。確実なランプ始動およびランプ動作状態の監視ため図6に示すステートを設けてシステムの動作状態を管理しています。
起動待機状態。降圧コンバータとインバータを停止。電源ONまたはBOD検出(VBUS低下)で常にこのステートに入ります。VBUSが既定の電圧に達したらCT1とCT2をクリアしてイグニッションに遷移します。
降圧コンバータとインバータを起動し、イグニッションを開始します。テイクオーバ成功(アーク放電を開始して出力電圧低下)を確認したらCT1をクリアし、点灯ステートへ遷移します。開始からT1時間経っても放電開始しない場合、CT1 < N1 ならCT1をインクリメントしてイグニッション待機へ、CT1 = N1 ならイグニッション失敗(ランプ寿命または負荷オープン)としてフォールトへ遷移します。
点灯開始後、ウォームアップを経て放電管温度が安定するとランプ電圧が規定の範囲に入りますが、T2時間以上外れたままの場合は、ランプ電圧異常と判断してフォールトに遷移します。その原因は、外管リークによるウォームアップ不良、放電管リークによる電圧低下、寿命による電圧上昇、不適切な定格のランプの装着などがあります。出力ショートを検出した場合もフォールトへ遷移します。立ち消えを検出したときは、CT2 < N2 ならCT2をインクリメントしてイグニッションへ、CT2 = N2 なら安定点灯不能としてフォールトへ遷移します。点灯開始からT3時間経ったら点灯安定とみなしてCT2をクリアします。
イグニッションパルスが連続して出力されるのを制限するため、インバータを停止しT4時間待機してから再びイグニッションに遷移します。
ランプまたは配線の異常を検出した状態。全動作停止。

マイコンのプログラミング端子はUARTなので、ステートや各部の電圧や電流をUARTに出力してPCで動作をモニタすることができます。また、PCからのコマンドで各動作パラメータを動的に調整することも可能です。当然ですが、PCに接続するときは絶縁UARTアダプタまたは絶縁電源トランスを使用しないと危険です。
「とりあえず動作状態を確認したいけどPCを持ち出すのは大げさ」ということで製作してみたのが図7に示す小型ディスプレイです。これは、プログラミング端子に挿してTXD信号(UART出力)をOLEDに表示するだけのシンプルなシリアルディスプレイユニットで、20桁×4行の表示が可能です。タクトスイッチはRXD信号(UART入力ですが、スイッチ入力としても使用)に接続されて最低限のコマンド送れるようにするもので、このプロジェクトでは押下時間 100~400msおよび400~800msでそれぞれ-1Wおよび+1Wづつランプ電力を調整できるようにしています。
ディスプレイユニットの電源(3.3V, 20mA)はプログラミング端子に出ている内部電源から拝借するので、別に用意する必要はありません。プログラミング端子を統一しておけば他のプロジェクトにも汎用的に使えるので、小型シリアルディスプレイ[en]として一つの記事にまとめておきました。
