Update: 2002. 6. 12

RS-170A NTSCビデオ信号タイミング規格の概要


ここでは、EIA RS-170Aで規定されるNTSCビデオ信号のタイミングの取り決めについて概要だけ簡単に解説しておきます。現在はRS-170Aは、改訂されてSMPTE 170Mになっているようですが、大した違いはないし一般的にRS-170Aで通用するのでこれで覚えておけば十分でしょう。

NTSCカラーテレビジョン信号には、3つの同期信号(水平同期、垂直同期、色同期)があります。これらのタイミングは全て色副搬送波を基準に作られます。これは、輝度信号と色副搬送波の相関関係を保ち、それらのスペクトラムインターリーブの関係を確立するためです。これらの周波数は次のようになっています。

NTSC信号の基本周波数

カラーサブキャリア周波数(fsc): 3579545Hz±10Hz

カラーサブキャリアとは、色信号を輝度信号に重畳するための副搬送波のことです。この周波数が全てのタイミングの基準になるため、許容偏差は±10Hz(±2.8ppm)しか許されていません。実際の放送においては数10pptという恐ろしい確度で管理されています。

輝度信号のみから成る白黒映像信号をカラー化するにあたり、2チャネルの色信号(色差信号とも呼ばれ、輝度信号との演算でRGBに変換できる)を加える必要がありました。さらに既存の白黒受像器との互換性(カラー信号を受信しても正しく白黒で映る)を保つ必要もあります。NTSCでは色信号で直交二軸変調(QAM)したサブキャリアで重畳しています。サブキャリアの周波数は、輝度信号への干渉(縞模様)を避けつつ音声搬送波(映像搬送波+4.5MHz)にビート障害を与えない条件で選定されました。この際、タイミングのつじつま合わせのため白黒放送のときの水平・垂直周波数(fH:15750Hz、fV:60Hz)がわずかに変更されました。カラー化に伴い29.97fpsという半端なフレームレートが誕生した瞬間です。輝度信号への干渉防止は、スペクトラムインターリーブという方式によって実現されていて、白黒受像機上では次のような効果となって現れます。

水平同期周波数(fH): fsc/227.5 = 15734Hz

水平期間を227.5scとすることにより、1ライン毎にサブキャリアの位相が反転することになります。これにより、面で見るとサブキャリアのドットが細かい市松模様のようになって妨害が目立たなくなります。もしも整数比だった場合は、1ライン毎にサブキャリアの位相が合い、白黒受像機では色のある部分に強い縦縞が出て妨害が目立ってしまいます。

垂直同期周波数(fV): fH/262.5 = 59.94Hz

1フィールドは262.5ラインなので、このようになります。また、1フレームは29.97Hzです。1フレームのライン数は奇数(525ライン)なので、フレーム毎にもサブキャリアの市松模様が高速に反転することになり、フレーム間でもドットが相殺されて妨害が目立たなくなります。これらの周波数関係はコムフィルタで色信号を容易に分離できることにもつながっています。このようにNTSCでは色信号を巧妙に合成することにより、既存の白黒システムとの互換性と、色信号を容易に分離する手段を確保しているのです。

水平同期部タイミング詳細

この図は、水平同期部のタイミング仕様を図に書き出してみたものです。時間軸と電圧レベルのスケールはそれぞれにおいて値の関係が相対的に正しくなるようにしました。ここで、IREという単位が出てきましたが、これは映像信号の電圧レベルを相対的に表す単位です。ペデスタルレベルを基準に映像信号の100%白レベル(いちばん明るいところ)を100IRE、同期パルスの先端を-40IREとしています。したがって、最大振幅は140IREとなります。このようにIREを使った方が各電位の関係が直感的に分かるようになります。機器の映像入出力の電圧レベルは一般的に1VP-Pなので、多くの場合 1IRE = 7.14mV です。

図を見ると分かると思いますが、ほとんどのタイミングは水平同期パルスの立ち下がりが基準になっています。そして特にSC-H位相(水平同期とカラーサブキャリアの位相関係)が厳格に規定されているのが分かります。放送・プロダクション現場においては、デジタル信号処理や映像信号の合成などが重要ですが、SC-Hがバラバラではこれらの処理でいろいろ不都合が生じるからです。同期パルスの立ち上がり・立ち下がりの傾き(けっこう厳しい)やカラーバーストのエンベロープの形状まで規定されています。業務用機器は高い信頼性と互換性が保証されなければならないため、標準規格に適合した設計になっています。

ただ、民生機器レベルではこれらの規格はあまり意識されません(というか厳格に守る必要はない)。そもそも、空中を伝搬してきた映像信号は、いろいろな歪みやノイズの影響を受けてまともな波形ではなくなっていますし、テレビジョン受像器やビデオレコーダーはそういった信号でも問題なく映し出したり録画したりできる耐性を持っているからです。

水平同期パルス

各水平ラインの開始を示す同期信号です。受像器ではこのパルスで水平偏向回路をトリガしてビームを水平方向に走査します。水平同期の周期は63.56μs(1/fH)です。

カラーバースト

カラー化により追加された3つ目の同期信号で、色同期信号とも呼ばれます。カラーバーストはその位相と振幅により、色信号を復調する際の基準位相復調レベルを与えます。受像器で位相のほかに振幅が参照されるのは、色信号を含む高域部が比較的レベル変動しやすいため、これを補償するためです。また、白黒信号またはカラーバーストが異常に減衰して復調困難な信号が入った場合は、色ノイズになるのを防ぐため色復調回路が自動停止して白黒画像になります(カラーキラーという)。

ペデスタルレベル

要はグランドレベルのようなもので、これが輝度信号と同期信号の基準電位になります。出力ポイントにおいてペデスタルレベルを0Vにできない場合(+単電源回路ではそうなる)は、数百μFのコンデンサでDCブロックしてAC結合とします。一部を除いて多くはAC結合になっているようです。

セットアップレベル

輝度信号の黒(輝度=0)とみなされる電圧レベルです。元祖NTSCの米国では7.5IREですが、日本では0IREが用いられています。でも、古いLDソフトで7.5IRE、最近のLDで0IREなどと混在もしていることから、実際には曖昧なようです。7.5IREセットアップの信号を0IREセットアップのモニタに表示すると黒が若干浮いたようになります。

最近の変更点

最新仕様(SMPTE 170M)でも基本的なところはRS-170Aと同じで、ブランキング期間の定義が若干変更されている程度です。SC-Hはカラーバーストの前縁ゼロクロス(振幅が50%をまたぐところ)で規定され、19sc±10度と一段と厳しくなっています。

垂直同期部タイミング詳細

上の図に4つのフィールドの垂直同期部を示します。なぜ4フィールドなのか。NTSCでは、カラーサブキャリアの位相がライン毎、フレーム毎に反転するのは先に述べました。したがって、3つの同期信号の位相関係が一巡するのは2フレーム期間ということになります。この4フィールドシーケンスの組はスーパーフレームとかカラーフレームと呼ばれます。各フィールドのSC-H位相はライン10の部分に示すとおりです。SC-H位相を意識しないのであれば、フレームAとBは同じものなので1フレーム単位で考えれば十分です。

水平ライン毎に付けてある番号がライン番号を示します。各フィールド262.5本、1フレームで525本になります。カッコ内は偶数フィールド中におけるライン番号です。NTSC信号の表示領域(有効走査線数)は、最大485本となりますが、DVD等では上下2.5本を切り捨てて480本しか記録されていません。

垂直ブランキング期間

垂直帰線期間の画面に表示されない部分のラインで、この間に垂直同期パルスが入ります。実際の放送では、ライン15~21にいろいろな情報(文字放送、GCR信号、テスト信号など)が乗せられていますが、普通は画面の外にはみ出していて見えません。

垂直同期パルス

パルス幅は3H期間で、一般的にCR積分回路で分離されます。

等化パルス(equalizing pulse)

インターレース走査では、垂直同期パルスが262.5H毎(525インターレースの場合)に入ります。何も考えずに垂直同期パルスを合成すると、垂直同期パルス前後の波形が偶数フィールドと奇数フィールドで異なったものになります。すると、積分回路で正確に227.5H周期の垂直同期パルスを分離することができなくなり、それぞれのフィールドをインターレース合成できなくなってしまいます。これを防ぐため、垂直同期パルス前後の波形がそれぞれ同じになるようにする(等化する)ためのものです。等化パルスは垂直同期パルスの前後3H期間に0.5H周期で挿入されます。APLを保つためかパルス幅は水平同期の半分です。等化パルスはそのままでは水平ドライブやゲンロックに支障を来すので、水平同期として利用する際は0.5Hポイントのパルスがマスク(half-Hキラー)されて使われます。

切り込みパルス(serration pulse)

垂直同期パルス期間に立ち下がりエッジが無くなってしまうのを防ぐため、垂直同期パルスを0.5H周期で切り込む正極性のパルスです。パルス幅は等化パルスの倍ですが、これはクランプ回路の動作上、立ち上がり後4.7μsはペデスタルレベルにないとまずいためと思います。というより、垂直同期期間に等化パルスの幅が27.1μsに広がると考えた方が自然かもしれません。

垂直周波数の60Hzについて

電源周波数に合わせるためです。CRTのアノード電圧は偏向のかかり具合に影響します(電圧が下がると電子の勢いが弱まって偏向が強くかかり画面が拡がる)。高圧レギュレーションの悪いCRTで、明滅に合わせて画面が膨らんだり縮んだりするのに気づいた人も多いでしょう。テレビジョンが開発された当時の回路技術では、アノード電圧が電源リプルの影響を受けていました。当然、電源リプルに合わせて画面が歪みますが、電源周波数と垂直周波数が異なると、歪みの垂直位置がその差の周波数で巡るため画面の揺れとなって見苦しいものになってしまいます。電源周波数と垂直周波数を同じにした場合、歪みの位置が静止するので画面が揺れて見えることはなくなるのです。

ところで、日本では電化が始まった当時、東京の電力会社はヨーロッパから、大阪の電力会社はアメリカから発電設備を輸入しことから、関東と関西で50Hzと60Hzに分かれたまま現在に至っています。日本ではアメリカからテレビジョン技術を導入した際、回路に工夫することで画面の揺れを抑えたそうです。

垂直周波数の50Hz/60HzはNTSC方式やPAL方式固有のものではなく、電源周波数由来だったわけです。だから、60Hz PAL方式の国もあります。さすがにNTSCは少数派なので、50Hz NTSCというのは無いようです。なお、NTSC/PAL/SECAM方式の違いは、色信号の重畳のしかたにありますが、ここでは説明しません。

ビデオテスト信号 | 目次