放熱器の使い方 ~ 火を噴かない設計のために


1998. 8. 27


今更言うまでもありませんが、放熱器とは機器で発生する熱を外部に伝えることにより温度上昇を抑えるための部品を言います。ここでは、特に電子部品に取り付けて放熱を促すためのもの(いわゆるヒートシンク)について説明しましょう。

熱抵抗の計算

いきなり熱抵抗などという用語が出てきましたが、これが放熱設計の基になるので最初に説明しておきます。簡単に言うと、熱抵抗とは熱の伝わりにくさのことで、記号はθ、単位は[℃/W]です。つまり、熱抵抗が低いほど熱が伝わりやすいと言えます。熱抵抗とその関連項目は次のように、電気回路の要素に置き換えて考えることができます。

熱抵抗の概念
発熱量 Q [W] → 電流 I [A]
温度差 ΔT [℃] → 電位差 E [V]
熱抵抗 θ[℃/W] → 電気抵抗 R [Ω]

このようにモデル化することにより放熱設計にオームの法則が適用できるので、直感的に理解できると思います。例えば、ある絶縁シートの表と裏の間に温度差を与えたとします。すると、温度が高い方から低い方へ熱が伝わります。温度差 1℃ のとき 1W の熱がシートを伝わっているとすれば、このシートでの熱抵抗は 1℃/W です(素材固有の熱抵抗とは別)。そして、シートを2枚重ねにすれば直列接続で熱抵抗は2倍、面積を2倍にすれば並列接続で熱抵抗は1/2といった感じです。

電子部品内部で発生した熱は、いろいろな経路を経て最終的には大気に伝わってゆきます。たとえば、パワートランジスタの場合、半導体チップ(j)パッケージ表面(c)ヒートシンク(hs)大気(a)となります。熱抵抗は熱が伝わる経路の素材すべてに存在します。そして、パワーデバイスの場合、発生した熱のほとんどはヒートシンクなど決められた経路を通ることになるので、半導体チップから大気までの熱抵抗は途中の物を全て加算したものとなります。

放熱設計の例

さて、それでは実際に簡単な放熱計算をしてみます。発熱量(消費電力)と周囲温度は最初に分かっていることが多いので、その下で半導体チップの温度を許容値以下に抑えるために必要なヒートシンクの選定作業となります。仮に条件を次のように設定して必要なヒートシンクを算出してみます。発熱量と周囲温度はワーストケースを想定します。実際には、TO-220パッケージに10Wも食わすような使い方はあまりしないですけど。


最大発熱量10W
最大周囲温度50℃
トランジスタ最大定格: Pc=50W(Tc=25℃), Tj=150℃、外形: TO-220
その他部品マイカシート、シリコングリス使用

最初に半導体チップから外気までに要求されるトータルの熱抵抗を計算します。条件からチップから外気までの温度差 ΔTj-a100℃発熱量 Q10Wとなります。したがって、トータルの熱抵抗(θj-a)は、θ = ΔT / Qより、100℃ / 10W = 10[℃/W]以下でなければならないということになります。ちなみに、Tjはチップ(junction)温度、Tcはパッケージ(case)表面温度、Taは大気(atmosphere)温度のことです。

次に、要求されるトータルの熱抵抗からチップ-ヒートシンク間の熱抵抗を差し引きます。チップからパッケージの間と、パッケージとヒートシンクの間の熱抵抗がこれにあたり、それらを引いて、残った熱抵抗がヒートシンクに要求される性能となります。

まず、チップからパッケージ表面までの熱抵抗(θj-c)。これはそのトランジスタのデータシートに記載されていることが多いですが、不明な場合は次のように算出します。

θ = ΔT / Q より、θj-c = Tj-c / Q = (150-25) / 50 = 2.5[℃/W]

次に、パッケージからヒートシンクまでの熱抵抗(θc-r)。これは、パッケージとヒートシンクの接触部での熱抵抗で、その組み立て状態(絶縁シートやシリコングリスの有無、締め付けトルクなど)により変わります。例えば、TO-220パッケージの場合は大体次のようになるようです。


マイカシートシリコングリス
なし
シリコングリス
あり
なし2.0℃/W0.5℃/W
あり5.0℃/W2.5℃/W

この例では、マイカシートで絶縁、シリコングリス使用となっているので、2.5[℃/W]となります。これで、チップからヒートシンクまでの熱抵抗が分かったので、トータルで要求される熱抵抗(θj-a)からこれらの値を引きます。すると、

θj-a - θj-c - θc-r = 10 - 2.5 - 2.5 = 5

となり、必要とされるヒートシンクの性能は5[℃/W]以下ということになります。ただし、このように計算した値はこれを越えると破壊に至る限界値であって、実際にはこれを元にして十分なマージンを持たせたヒートシンクを選択するのは言うまでもありません。最近はマイカシートはすっかり廃れ、作業性の良いシリコンラバーシートが主流になっています。ゴム質で密着性が良いのでシリコングリスが不要になりますが、熱抵抗が高めなのが欠点です。最近のTO-220パッケージは金属部が樹脂でフルモールドされたものが増え、それらは絶縁シートが不要(シリコングリスは必要)です。

放熱器が無いと

パワーデバイスに放熱器を付けないと許容損失は劇的に低下してしまいます。TO-220パッケージは、放熱器無しで使われることも多いですが、ヒートシンク無しの場合の熱抵抗(θj-a)は数十℃/Wで、許容損失は1~2W程度となります。

過渡熱抵抗

瞬時的な発熱量が設計値を越えたとしても、それが短時間なら許容されることもあります。半導体チップ、パッケージ、ヒートシンクはそれぞれ熱容量を持っているからです。これは、RCネットワークとしてモデル化でき、主に間欠動作や過渡動作での熱設計に有効です。なお、発熱が間欠的であっても、それが熱時定数に対して十分高速な場合(スイッチング電源など)は、発熱を平均化して直流動作として扱います。

自然空冷

ヒートシンクの熱は、主に空気の対流によって大気中に拡散していくので、うまく対流が起こるようにヒートシンクを配置しないと、熱抵抗が上がってしまいます。例えば、ヒートシンクのひだが垂直になるように取り付けるべきものを横向きに置いたりすると、熱抵抗は1.5倍程にもなってしまうのです。自然空冷ではうまく空気の対流が起こるようにレイアウトに工夫し、ヒートシンクの上下に気流を妨げるものを配置しないようにする必要があります。

強制空冷

ファンなどで強制的に空気の対流を起こしてやることにより、ヒートシンクの熱抵抗を大幅に下げることができます。これを強制空冷といいます。セット内部の換気も兼ねることにより周囲温度も下げるなど、放熱性能を飛躍的に高めることが可能になります。また、強制空冷ではヒートシンクの配置が自由になります。

しかし、外気を取り込むことにより埃がヒートシンクなどに付着して熱抵抗が上がったり、ファンの騒音や寿命といった欠点もあります。このため、強制空冷のセットでは定期的なメンテナンスが欠かせません。