【注意】感電します!
鈍い琥珀色の光で満たされる道路トンネル。トンネル内の照明といえば右の画像に示すような黄~橙色の光を思い浮かべる人が多いと思います。この色はナトリウムランプによるものです。ナトリウムランプは道路照明として広く使われていて、特にトンネル照明に限っては低圧ナトリウムランプが広く使われてきました。低圧ナトリウムランプは、蛍光ランプと同じく真空放電を利用するランプの一種で、主に次に示す特徴を持ちます。
ナトリウムランプは、励起されたナトリウム原子の放射(ナトリウムD線)を光出力として利用するもので、真空放電下ではほぼ単波長のスペクトルとなります。黄系の単波長スペクトルは煤煙の濃い場所での視界が良く、高い効率は常時点灯における経済性につながります。これらの特徴が、低圧ナトリウムランプがトンネルなどの閉鎖空間の道路照明として好んで利用されてきた理由です。しかし、そんな低圧ナトリウムランプも排ガスの清浄化やLEDランプの普及により、他の放電ランプ同様に急速にその数を減らしています。交換ランプの生産も2019年までに終わっているので、消滅するのは時間の問題と言えます。
さて、このように他のランプには無いユニークな特徴を持っている低圧ナトリウムランプ、電球マニアとしては絶対に外せないランプと言えるでしょう。ということで、今回のプロジェクトではこの低圧ナトリウムランプを光らせてみることにします。
サイズ (L/D) | SOX | SOX-E |
---|---|---|
T50 (216/52) | - | 18 W |
T50 (311/52) | 35 W | 26 W |
T50 (425/52) | 55 W | 36 W |
T65 (528/66) | 90 W | 66 W |
T65 (775/66) | 135 W | 91 W |
T65 (1120/66) | 180 W | 131 W |
バリエーションの豊富な高圧ナトリウムランプに比べ、低圧ナトリウムランプには表1に示すようなごく限られた規格しか存在しません。日本においては、SOXタイプがNX型番(NX35~NX180)で販売されていましたが、SOX-Eタイプは最後まで普及しませんでした。
低圧ナトリウムランプの光出力が最大になる放電管温度は約260℃で、この温度を保つための電力が少ないほどランプ効率は向上します。しかし、低圧ナトリウムランプは放電管が大型になるため、初期の頃は保温が十分ではありませんでした。その後保温技術は向上を続け、それに伴いランプの規格は SO → SOI → SOX → SOX-E と進化を遂げてきました。SOは片口金のU字型放電管に脱着式の魔法瓶をかぶせたタイプ、SOIは外管を一体化してその内部を真空にしたタイプ、SOXは外管内側に赤外線反射コーティングを施し熱輻射によるロスを減らしたタイプ、SOX-Eはコーティングの改良および電流を最適化しランプ電圧を高めたタイプです。これらのうちSOXとSOX-Eが'80年代以降最後まで使われました。これらのほか、直管蛍光ランプに似た形状の両口金タイプ(SLI)も存在しましたが、SOXに取って代わられ消滅しています。
図2にチョーク式安定器による点灯回路を示します。電源電圧はチョークコイルを通して、またはリーケージトランスで昇圧されてランプに加えられます。イグナイタ(グロー式または電子式)はランプ端子間をスイッチングすることでインダクティブキックを発生し、これでランプの放電を開始します。また、波高率の高い(とんがった)出力波形のリードピーク式安定器により、過大な出力電圧にせずともイグナイタなしで瞬時始動できるようにしたタイプも広く普及しました。
低圧ナトリウムランプは屋外やトンネルといった厳しい環境下で使われることがほとんどだったせいか、耐環境性の一歩劣る電子安定器は蛍光ランプ(多くは屋内照明)用の安定器ほどは普及しなかったようです。もちろん、真空放電ランプである低圧ナトリウムランプは、蛍光ランプと同様に高周波駆動で高効率に点灯することが可能です。したがって、低圧ナトリウムランプ用の電子安定器は図3に示すように、HIDランプ用に比べて極めてシンプルな構成となります。
項目 | ACタイプ | DCタイプ |
---|---|---|
対応ランプ | SOX-E 36 W | SOX-E 18 W |
電源入力 | AC 100-120 V | DC 24 V |
このプロジェクトでは表2に示す2つの異なるタイプの電子安定器(一つはAC電源で動作するタイプ、もう一つはDC電源で動作するタイプ)を製作し、それぞれで低圧ナトリウムランプ照明を製作してみました。DC電源タイプは電池動作が可能なので、どこでも低圧ナトリウムランプを楽しむことができます:-) これらの電子安定器は機能的にほぼ共通なので、ACタイプについてのみ詳解し、DCタイプについては差異の解説のみとします。
図3に製作した電子安定器の回路を示します。回路図中のアルファベットで示すマークは本文で示すオシロ波形のプローブポイントで、電圧A→Ch1、電流B→Ch4、電圧C→Ch2にそれぞれ対応します。
Q2とQ3でハーフブリッジインバータを構成します。入力電圧にもよりますが65~75V程度の矩形波出力となります。インバータ出力につながるC14とR14はスナバで、吸収した電力を回収してコントローラ用の補助電源に充てています。インバータはマイコンのPWM出力によって駆動されます。
インバータ出力はC9でDCブロックし、L1とC10で構成されるマッチング回路に接続されます。L1は、コアにB66317G0000X187(g=0.4)、主巻線にリッツ線(0.1×40条)を58T、補助巻線にラッピング線を1Tで製作し、L=400μH/Isat=4Aとなりました。C10は、高周波大電流に対応したインバータ向けのポリプロピレンキャパシタ(10nF/1.6kV)です。ランプはC10に並列に接続されます。
インバータの駆動周波数は、LCネットワークの共振周波数付近に設定され、インバータが動作を開始すると直列共振による大きな共振電流が流れます。そしてC10の両端にはインバータ出力の数倍~十倍程度の電圧が発生し、これがランプに加わります。ランプが放電を開始すると抵抗負荷がC10に並列に入ることになり、Qが下がって自然に共振状態ではなくなります。インバータ周波数とLCの値はこの状態でランプ電流が適切になるように選定しますが、場合によっては駆動周波数を動的に変更して最適な条件で動作するようにします。
ランプの放電状態をマイコンで監視して制御するため、何らかの方法でそれを検出する必要があります。このプロジェクトでは、インダクタ電流を利用することにしました。このため、L1に補助巻線を設けてこれに誘起する電圧をピーク検波してマイコンのADCに入力(電圧C)しています。インダクタ電流を正弦波と仮定するとC点の電圧Vは、
V = (2π・f・L・IL・N - VF)・R6 / (R6 + R7)
(ここで、ILはインダクタピーク電流、Nは巻数比(1/58)、VFはD6の順方向電圧)となります。
バス電圧が所定のレベルを超える(BOD状態から回復する)と動作が許可され、ブランキング時間経過後イグニッションステートに入り、80kHzでインバータを起動します。低圧ナトリウムランプでは蛍光ランプのような予熱ステートは無く、いきなりイグニッションから開始です。このため、低圧ナトリウムランプの頻繁な点滅はランプ寿命を縮めることになりますが、道路照明用なら特に問題にはなっていません。イグニッション開始の瞬間を図4に示します。放電開始前はランプインピーダンスは無限大、つまり無負荷状態なのでインバータ起動後共振電流はすぐに増加し、ほんの数サイクル(50μs程度)後にはランプにかかる電圧が1kV(ピーク値)近くに達して、ランプがブレークダウンしているのが波形から分かります。
ブレークダウンによりランプはまずグロー放電を開始し、電流が十分なら電極が加熱されアーク放電に移行(テイクオーバ)します。この過程における波形を図5に示します。波形の変化が2段階になっているのは、両電極のアーク放電移行に時間差があるためです。この例では、50msでインダクタ側、150msでGND側の電極がアーク放電に移行しています。
ランプの電気的特性から見たグロー放電とアーク放電の違いは、ランプインピーダンスです。グロー放電では陰極降下がアーク放電よりもはるかに大きいため、ランプインピーダンスも高くなります。この負荷インピーダンスの違いにより共振回路のQ低下の程度が異なり、負荷インピーダンスが低くなればインダクタ電流は減少します。これにより、インダクタ電流をモニタすることでランプの放電開始およびアーク放電移行を検出することができるのです。Ch2(緑色)はマイコンの電流モニタ入力(C点電圧)で、検出ゲインはほぼ計算通りの値になっているのが分かります。
ランプ寿命またはランプ未接続などで放電開始しない場合、大きな共振電流が流れ続けることになります。その状態が続くと回路部品にストレスを与え故障の危険があるので、一定時間以内に放電開始を検出できない場合はイグニッション動作を打ち切る必要があります。図6にその様子を示します。シミュレーション上では数十Aの共振電流となりましたが、実際にはインダクタの飽和(約4A)によるQ低下で4~5A程度のピーク電流になっていました。イグニッション開始後10msの時点で放電開始を確認できなかったらイグニッション失敗としてブランキングステートに移行します。また、300msの時点でアーク放電に移行していなかったら、同様にブランキングステートに移行し、アーク放電に移行していたらランステートに移行します。ランステートでは適切な電流になるように必要に応じてインバータ周波数を切り替えますが、電流が進み位相になるとトランジスタが発熱する(ボディダイオードの逆回復損失による)ので、共振周波数より上を選ぶ必要があります。このプロジェクトでは85kHzとしました。ランステートでは立ち消えや負荷ショートなどの異常を検出したらブランキングステートに戻ります。
以上の動作をステート図にしたのが図7です。始動失敗が一定回数続いた場合は、点灯不能として永久にブランキングステートに留まり、全ての動作を停止します。
低圧ナトリウムランプは大型になるので、扱いやすいように対応ランプを限定して各ランプ専用の灯具を製作しました。図8に製作した灯具とそのスケッチを示します。灯具はアルミ板とアクリル板(各2mm)で組み立てた四角柱型で、背面と片方の端面をアルミ板のフレームとし、残り4面を透明アクリル板で覆う構造になっています。アクリル板はR付きで曲げて丸みを帯びたデザインとし、同時に接着部を最小限にして透光率を高めています。ただ、このアクリル板の加工が意外に面倒で、任意のR付き曲げには専用の治具が必要になります。今回は適当なRを持つ家具を曲げ型にしてヒートガンで炙りながら曲げたところ、うまくいきました。低圧ナトリウムランプの口金は、BY22dタイプ(B22dの耐パルス型)です。しかし、このソケットの入手が困難になっているため、E26→B22d変換アダプタを加工して使用しました。
低圧ナトリウムランプの扱いには特有の注意点があります。点灯中および消灯後15分程度は放電管内のナトリウムが液体となっているため、この間は移動などランプに振動を与えることは避ける必要があります。ナトリウムが大きく流動すると管壁を濡らして光束が低下したり、電極導入部に付着してシール不良を起こしたりします。また、バーニングポジションは水平(±20°)が基本です。これは、ナトリウムの流動防止および放電管の温度分布を一定にしてナトリウムの蒸気密度を均一に保つためです。なお、今回使用した小型(T50タイプ)のランプについては水平から下向き(+20~-90°)の点灯も可能です。
灯具の設置場所は机上や床上など場所を問いませんが、設置方向はバーニングポジションの制限に従う必要があり、縦置きにする場合はソケット側を上にします。背面プレートにはダルマ穴を設けて、壁面や天井などどこにでも簡単に取り付けられるようにしてみました。
図9に製作した18W DC電源タイプの灯具を示します。長さが短くなっただけでそれ以外の寸法は36W AC電源タイプと共通です。
電子安定器の回路構成もほぼ同じで、コントローラの制御プログラムはパラメータを除いて共通です。入力電圧はランプ電圧に比べて大幅に低いのですが、電圧比があまり大きくなるとマッチング回路の効率が悪くなるので、電源電圧は24Vとし、さらにインバータはフルブリッジ型として出力電圧を稼ぐようにしています。