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2013. 9. 8

LEDカクテル・ライトの製作


LEDカクテルライト

小物の写真撮影用に手軽に使える小型ライトが欲しくなったので、白色LEDを使用して製作してみることにしました。このライトは補助光源として使うことを想定しているため、色温度を選択できる必要があります。色温度ならホワイトバランスでどうにでもなりそうですが、補助光源の場合はメイン光源または環境光の色温度に合わせる必要があるからです。また、意図的に色温度を変えて陰影に色を付けるなどのテクニックも可能になります。

使用する白色LEDのパワーは10Wとしてみました。撮影用ライトとしては全く足りないように思えますが、LEDは発光効率と指向性が良いので10Wでもデスク・ライト程度の光量が得られ、小物の撮影には十分といえるでしょう。また、低電力なため電池駆動も可能になり、場所を問わずに使えるようになっています。

理論と実際

色温度とは

図1. 黒体放射のスペクトル

熱放射の強度とスペクトル分布は、完全黒体の場合その物体の温度によって決まります(黒体放射)。高温の物体の熱放射のスペクトルは可視光域にかかり目に見える光となりますが、そのスペクトル分布によって光は色を呈することになります。温度が低いときはピークは長波長側になり赤みを帯びた色となり、温度が高くなるにつれてピークは短波長側に移って青みを帯びた色となり、同時に放射パワーも劇的に増大します。

この色に対応する黒体の温度のことを色温度といいます。図1は黒体の温度とその熱放射のうち可視光域におけるスペクトル分布を示したものです(※可視光域において同じパワーになるようにノーマライズ)。

R+G+Bによる白色光

図2. RGB三原色による白色光

任意の色温度の白色光を作り出せる光源としては、まずRGB三原色のLEDを使用したものが考えられます。しかし、RGB LEDは演色性に問題があるため一般照明用としては使われていません。演色性とは、いくつかの色の物体(色見本)を照らしたときの各色の再現性を示すもので、連続スペクトルの白色光源(太陽や白熱電球)を100とした指数(演色評価数Ra)で表現します。例えば、水銀ランプでは14~50、蛍光ランプでは60~85、高演色メタハラでは90~95程度となります。撮影用ライトとしては Ra≧90 は欲しいところです。

図2にRGB LEDによる白色光のスペクトルの例を示します。図に示すようにスペクトルは不連続で、これはスペクトルの谷に当たる色の再現ができないことを意味します。その結果、物体の色によって黒ずんだり違った色に見えることになります。LED発光だけで演色性を高めるには、もっと多くの波長(5~7原色とか)を混ぜる必要があるでしょう。もっとも、RGB各色の帯域が狭いということは原色の色純度が高いということでもあり、ディスプレイ光源としては色の表現力が高くなります。

B+蛍光による白色光

図3. 白色LEDのスペクトル

単に照明の色温度を変えたいだけなら、全ての色を作れる必要はなく、いくつかの色温度の白色LEDを切り換えるだけでもよいのです。白色LEDは、青LEDとそれによって励起される蛍光物質によって実現されているため、スペクトルは図3に示すようになっています。参考までに照明用の各種光源のスペクトルを示しておきます。これらの白色光源における色温度は、その色に相当する黒体温度として設定されたもので、光源の温度を示すわけではありません。

白色とはいっても、ルミネッセンスである以上はやはり黒体放射からはかけ離れたもので、初期の白色LEDは演色性がとても悪いものでした。でも、演色性の悪かったLED照明も最近はかなり改善され、Raが90を越えるものも現れています。今回は2つの異なる色温度の白色LED(Ra=87)を使い、それらのパワーの比を制御することにより色温度を変えるカクテル・ライトとしてみました。もちろん、一般的なカクテル・ライトとは違い、その目的は演色性改善ではなく色温度の調整です。

ハードウェア

LEDドライバ

写真2 製作した基板 | 回路図
基板
写真3 LEDと放熱器
ライトヘッド

電源電圧に対してLEDの電圧が高い(約20V)ため、回路図に示すようにL1/Q1でステップ・アップ型コンバータを構成しています。SMPS制御はマイコンによって行うため、レギュレータICは使っていません。Q2はPWM制御によって2つのLEDへの電流の配分率を変えます。撮影用光源なので明るさはある程度安定させる必要があるため、LED3のように横着せず、ちゃんとLED電流をフィードバック制御するようにしています。R1はSMPSのピーク電流の検出用、R2はLED電流の検出用です。これらのほか、入力電圧と出力電圧もモニタしています。

LEDは□42mmの放熱器にマウントします。2個のLEDが離れていると混色したとき陰影に色が付くので、なるべく密着するように配置する必要があります。このサイズの放熱器では10Wの放熱は無理なので、ファンを組み込んで強制空冷としています。LEDの前面にはアクリルの保護カバーを取り付けています。普通のアクリルだと光束のロスが大きいので、写真のように反射防止コート付きのアクリル板を使った方がよいでしょう。基板は放熱器の後ろにマウントしたので、全体はコンパクトなキューブ型に収まっています。

ソフトウェア

ファームウェアの機能はSMPS制御が中心になります。そのほか、2つのLEDの混合比の制御も行っています。この制御にはタイマ1を使っていますが、ちょうど良くコンプリメンタリPWM出力があるので、これを利用することでオーバ・ラップせずに簡単にON時間の比を変えることができます。混合比の調整は、押しボタン・スイッチによって行います。WARM/COOLボタンを押している間はそれぞれの色温度側に連続的に変化します。混合比はEEPROMに記憶されるので、次回電源ON時も同じ色となります。

入出力電圧も常時モニタし、バッテリの消耗(8V以下)や出力オープンによる過電圧(25V以上)などの異常を検出したら動作を停止するようにしています。

資料

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