以前作ったGPSロガーは電源やサイズなど車載用に特化したもので、基本的にはクルマの走行経路しか記録できません。しかし、最近の測位データの精度はとても素晴らしく、徒歩のうろつき具合まで記録できるメートル・オーダの確度が出るようです。そこで、車を降りて歩いたルートも記録したい、との考えからポータブルなGPSロガーを作ってみました。
ポータブルとして必要なことは、なるべく小型であることと長時間の電池駆動が可能なことで、これに重点に置いた設計とします。
比較的スペースを食う部品であるため、なるべく小型のものを選択します。探していたところ、Aitendoでとても小型なレシーバ(NaviSys Technology社のGM-316, 13x16x9mm)が扱われていたので、これを使うことにします。電池駆動のため消費電力も重要な条件ですが、これも3V-26mAとかなり少ない方です。
2012. 1. 29: GPSモジュールをPA6Cに換装してみました。これに伴い、F/WはPA6C対応となっています。
最もスペースを食うのが電池です。必要な駆動時間を稼ぐためエネルギー密度は高いほうが良いので、必然的にLi-Ion電池になります。また、その高い出力電圧はノイズ発生源となる昇圧回路を排除し、GPS信号の受信に影響を与えないという大きな利点もあります。しかし、Li-Ion電池は素人が扱うと発火・爆発の危険があるので、指定された充放電条件を厳密に守らなければなりません。このため、生セルが一般に販売されることは無く、入手はNiMH電池ほど簡単ではありませんが、ある日偶然入った雑貨屋でLi-Ion電池の生セルが無造作に陳列されているのを見つけました。一般向けの店でそんなのを売って大丈夫なのか?と思いましたが、特殊電池が安定して手に入るのは嬉しいことです。今回は単4サイズで3.6V/500mAhのものを使用しました。
測位データの記録にはスペースの理由からMicroSD、マイコンにはAtmelのATmega328Pを使用します。マイコンでSDC(つまりはFATファイル・システム)を扱うためには、ある程度のプログラム容量が必要になります。AVRの場合は余裕を考えると32Kバイトは欲しいところです。基板にはこれらのほか、Li-Ion電池の充電回路と電源回路が必要になります。電源スイッチは設けず電源OFFはマイコンのスリープ動作としたので、マイコンには電源が常時供給されます。レギュレータICは消費電流の少ないものが必要になるため、トレックスのXC62FPシリーズ(2μA)を使用しました。右に製作したコントローラ基板と回路図を示します。
タカチのSW-53を使用しました。今回のプロジェクトにはピッタリのサイズですが、組み込みにはかなりタイトといえます。電池の直径(10mm)に対して内寸が8.5mmしかないので、蓋と底を削って収まるようにします。GPSレシーバも高さが9mmあるので同様です。使用したLi-Ion電池には半田付けのためのタブがありませんが、間違っても直接はんだ付けしたりしてはいけません。これはケースと電池の間にバネ(金メッキ燐青銅線)を挟むことで安定した接触が得られました。電池はケースに接着して固定します。
GPSレシーバからNMEA-0183フォーマットで連続して送られてくる測位データをそのままSDCに記録していくだけで、特別な処理は行っていません。電源ONでGPSレシーバとSDCに電源を供給して、受信データのモニタを開始します。しばらくして衛星を捕らえ有効フラグの立ったRMCセンテンスが来たら、日付を取得してログの記録を開始します。ログ・ファイルは現在のJST日時のファイル名YYMMDD.LOGでルート・ディレクトリに作成されます。既に同じ名前のファイルがある場合、それに追記で記録されます。RMCセンテンスの内容は常にモニタしていて、時刻の取得と受信状況をチェックします。電波の届かない所に入るなどして受信データが無効を示しているときは記録を中断し、有効になったら記録を再開します。
Li-Ion電池は過充電・過放電にとても弱く、2.750V~4.200Vの範囲内で使用しなければなりません。電池電圧も常にチェックして、放電終了(本機では3.5V以下)を検出したら自動で電源OFFにします。充電は専用の充電管理IC(LTC4054L)で行います。
GPSレシーバが安定に受信するには、アンテナから見て空が最もよく見える場所に設置する必要があります。ポータブル用途なら頭の上が理想的ということになりますが、ほかにもザックの上、肩ベルト、帽子のツバなど設置しやすい場所がありそうです。
電源はボタンが1秒間押されると認識して電源をトグル動作します。電源ONのあと有効データが来たら「ピピッ」と鳴って記録を開始します。LEDは有効データが来ている間は連続点灯し、電波が途切れているときは点滅状態になります。実際の消費電流からすると、動作時間はフル充電で連続15時間程度になると思われます。
資料にGPSロガーのファームウェアと、実際に記録された経路を示します。GPSロガーの設置箇所はザックの肩ベルトでした。