ステディカムの原理と製作


2007. 10. 28


ステディカムは、カメラに加わる振動を除去するスタビライザの一種で、移動しながらの撮影に使われます。普通にカメラを持って走ったりしたら、画面が激しく揺れてとても見られた映像にはならないでしょうし、カメラ内蔵の手ぶれ補正機能などでは補正しきれません。でも、ステディカムを使えば、カメラが滑空しているかのごとく揺れのないスムースな映像が得られるのです。

ステディカムというのはTiffen社の登録商標ですが、現在はこの種のスタビライザの一般名詞にもなっています(このドキュメントでも一般名詞とする)。いくつかのメーカーから同様の製品が発売されています。ステディカムはカメラの重量に応じて大きく二つの方式に分けられます。普通は、キャメラマンの腰にマウントする腕の付いたアーム・ベストというものを使って全体の重量を支えます。一方、ごく軽量なカメラに対応する簡易型として、片手で保持するタイプもあります。価格は小型の手持ち式で数万円から数十万円、アーム・ベスト使用のものは数十万〜数百万円が相場のようです。

ステディカムの原理

Steadicams

ステディカムは、剛体における単純な力学的性質を利用したカメラ・スタビライザで、能動的な制御機構は一切持ちません。右の図にステディカムの代表的な構造を示します。構造上、バランス部(黒)と支持部(灰)に分けられます。カメラ・マウントから下に垂直に延ばしたポールの先にカウンター・ウェイトが取り付けられ、それらバランス部の重心を支える形になっています。

バランス部と支持部は三軸ジンバル(自由回転する連結機構)で結合されていて、支持部の角度変位はジンバルでキャンセルされます。また、ジンバルを通してバランス部に作用するあらゆるベクトルの加速度に対してもそこが重心であるため、バランス部にはトルクが発生しません。このようにして、画面の揺れの原因であるピッチ(X軸)、ヨー(Y軸)およびロール(Z軸)方向の回転運動は発生せず、カメラは常に一定の方向を保つことになります。

普通はボディ・マウント式がよく用いられ、スプリング・アームで全体の重量を支えるとともに、歩行による揺動もアームである程度吸収されます。手持ち式は1kg程度のごく軽量なカメラに用いられます。

ステディカムの製作

Hand held steadicam
部品・組立図
サンプル映像 [9MB]

比較的廉価な物もあるとはいえ特殊機材であるため、いままであまり手頃な価格とは言えませんでした。そこで、勉強をかねてひとつ自作ってみることにしました。ボディ・マウント式は無理としても、手持ち式なら自作できそうです。で、その結果として右の写真に製作したステディカムを示します。材料はホームセンターや模型ショップで手に入る物ばかりで、材料費は3000円程度でした。この程度の物でもハンディカム等には十分といえるでしょう。自作してみようという方のために参考までに図面も起こしておきました。ただし、最近は市販品を購入した方が手間や時間を含めたトータル・コストで自作よりもずっと安く上がるので、技術的興味でもない限り素直に購入した方が賢明といえます。

調整と操作方法

まずカメラをマウントにセットして、直立するようにカメラの位置とカウンター・ウェイトで大ざっぱなバランスを取ります。そして、カメラの位置でバランスを調整しながら、かろうじて直立する程度までカウンター・ウェイトを減らしていきます。完全に重心に一致させると復元力が無くなってしまうので、重心がジンバルよりわずかに下になるように設定すると良いようです。レンズ・キャップやLCDモニタの状態もバランスに影響してくるので、調整は実際に撮影するときの状態で行います。最後にハンドルを持って上下左右前後に振ってみて、カメラが揺れたり回転したりしないことを確認します。

カメラ・ワークは、ジンバル付近のポールを指で軽くつまんで向きを補正することで行います。ステディカムの操作にはある程度の技量(重量級カメラの場合は相当な筋力も)が必要とされ、安定した映像を得るには練習を重ねる必要があります。手持ち式は歩行の揺動が伝わりやすいので、歩き方にも工夫が必要です。また、ステディカムの弱点として、風による影響(風圧は対称に作用するとは限らない)があるので屋外での撮影では注意が必要です。あとは、適切なセッティング、適切な操作、そして訓練…これに尽きます。

高性能なステディカムの設計

これから設計しようとする場合、冒頭で示したステディカムの原理を押さえておけば、設計方針は自ずと決まってきます。操作性と安定性を高めるには、次のような点を考慮しておくと良いでしょう。

質量

ステディカムが同じ方向を保とうとする力は、バランス部の慣性モーメントによるものです。したがって、これが大きいほど安定することになります。慣性モーメントは質量に比例するので、重いカメラほど良いと言うことになります。カメラが軽すぎるときはデッド・ウェイトを加えることも考えられますが、片手で操作するため、際限なく重くするわけにもいきません。腕力にもよりますが、全体の質量は1〜2kg程が適当なようです。また、同じ質量でも質点が回転の中心から離れるほどその軸の慣性モーメントは大きくなります。多くのステディカムでカウンター・ウェイトが前後または左右に分散して取り付けられる理由は、不足しやすいヨー方向の慣性モーメントを確保するためです。

摩擦

バランス部と支持部は三軸ジンバルで結合されますが、ここに摩擦があると支持部の動きがトルクとしてバランス部に加わってしまいます。ジンバルの良し悪しはステディイカムの性能を大きく左右するので、可能なら三軸とも玉軸受けが良いのですが、できない場合はグリス等で摩擦を極力減らすようにします。もちろん、ジンバルのガタツキは御法度です。

剛性

バランス部は剛体であることがステディカムの前提条件です。歩行の振動で共振するようなヤワな構造では話になりません。パイプやアングル材を組み合わせてコーナーは固く結合するようにします。

操作手段1

支持部の角度変位はジンバルでキャンセルされバランス部に一切伝わりませんが、今度は困ったことにカメラの向きを変えることができません。パニングやチルトなどのカメラ・ワークは、指などでバランス部に適度なトルクを与えることにより行います。手持ち式ではその利点である軽快なフットワークを生かすため、片手で操作するのが基本です。このため、ハンドルを握りながらバランス部に指を添えられるように設計されます。(↓の項目も参照)

操作手段2

バランス部に対する操作はある意味外乱なので、これに過敏に反応してしまうと安定性が損なわれカメラ・ワークが難しくなります。このため、操作に対して反応が鈍い方が微妙な調整が利きます。質量を大きくすること以外では、作用点が軸に近いほど同じ力に対する反応が鈍くなるので、ジンバルになるべく近い部分をつまめるように設計します。

使い勝手

性能が十分でも使いにくいようでは自作する意味がありません。ステディカムというのは道具ですから、扱いが簡単で撮影がスムースに行えるのが良い設計といえます。たとえば、カメラの脱着がワンタッチで行えるとか、微妙なバランス調整を素早く行えるとか、コンパクトに収納できワンタッチで展開できるとか。あとは、何よりラフな扱いでも壊れないことですね。

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