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2023. 5. 4

HIDランプについて色々と


家庭用照明としてはほとんど馴染みの無いHIDランプ。しかし、家庭用以外の全てにおける照明はこのHIDランプ無しには成り立たないほど重要な地位を占めてきたのです。

HID(High Intensity Discharge)ランプは高輝度放電灯を意味し、その名の通り短いアーク(アーク長1cm当たり20~100W)によって高輝度な光源であることが特徴です。これは点光源に近いことを意味し、これにより配光制御が容易となります。また、ほかの高輝度ランプ(白熱ランプやハロゲンランプ)に比べてはるかに高効率で長寿命であることも使い勝手の良さとなっています。

さて、最近のLEDランプの急速な普及により、従来型光源のHIDランプも近い将来消えゆく運命にあります。HIDランプの技術には以前から興味があったのですが、消えてしまってからでは遅いので遅ればせながら電球マニアを始めてみました。このページでは、これまでの調査・研究を基に各種HIDランプの技術面について簡単に解説します。

  1. 高圧水銀ランプ
  2. メタルハライドランプ
  3. 高圧ナトリウムランプ
  4. 超高圧水銀ランプ
  5. 自動車用HIDランプ
  6. 低圧ナトリウムランプ
  7. HIDランプの安全対策
  8. ランプマウント
  9. 各種ランプの効率

高圧水銀ランプ

図1-1. 化学プラントと水銀灯(2015)

水銀灯は光源に高圧水銀ランプを利用した照明で、かつては街路や駐車場などの屋外照明全般、倉庫や各種施設の照明として広く使われていました。

高圧水銀ランプは水銀蒸気中のアーク放電を利用したものです。HIDランプの中では最初に普及したタイプで、また他のHIDランプの基本形となるものです。効率はHIDランプの中では最も低いものの、ランプがきわめて安価であることから最近まで生き残ってきました。しかし、環境問題(省エネと脱水銀の要求)もあり、一般照明用としては日本では2021年以降製造禁止されました。

図1-2に高圧水銀ランプ(透明タイプ)の光出力のスペクトルを示します。可視光領域では、紫(405mn)/青(436nm)/緑(546nm)/黄(578nm)の4本のスペクトル線の放射があり、さらに紫外領域の放射も加わります。このように赤成分の乏しい青緑色の発光とまばらなスペクトル線により演色性は極めて悪いものです。水銀灯のある夜景をカラー撮影すると、肉眼での感じとは異なり図1-1のように独特の鮮やかな緑色に写るため、写真家にとっては厄介な照明だったかもしれません。

図1-2. 透明高圧水銀ランプのスペクトル

構造

図1-3に高圧水銀ランプの構造を示します。アーク放電はチューブ状の放電管の中で行われます。放電管は高温に耐える石英ガラスでできていて、管の両端にタングステンの電極が設けられています。電極棒の先端には仕事係数(陰極降下)を下げて始動を容易にする効果のある材料(エミッタ材料添加タングステンなど)のコイルが巻かれています。電極導入部は箔シールといって、金属と石英ガラスの膨張率の差をモリブデン箔の塑性変形で吸収することで気密を保つようになっています。放電管には水銀と始動電圧を下げるためのアルゴンが封入されています。点灯中は水銀がアークの熱で蒸発し、蒸気圧は設計にもよりますが1~数気圧程度まで上昇します。高圧と付くのは、蒸気圧が真空放電を利用する低圧水銀ランプ(蛍光ランプのこと)に比べてはるかに高いからです。アーク中心の温度は数千Kに達します。

図1-3. 高圧水銀ランプの構造
図1-4. アークの先端

図1-4に点灯中の電極付近の様子を示します。アーク放電は陰極上において熱電子放出が主となる放電で、陰極の温度が高いほど熱電子放出は盛んになり、インピーダンスが低下します。その結果、電流は陰極表面のどこか一点に集中することになり、これをホットスポット(陰極点)といいます。ホットスポットのサイズは10μm程度とごく小さく、電流密度は10kA/mm2程度になります。

放電管は耐熱ガラス(硼珪酸ガラス)の外管の中に納められ、外管内は真空または窒素封入です。前者は保温性が高く効率およびウォームアップ特性が良くなり、後者は消灯後すぐに冷めるため再始動時間が短縮されます。初期の製品では外管は透明で、可視光出力は水銀原子からの放射のみとなり、青緑色で演色性は悪い(Ra=14)ものでした。後に外管内面に塗布した蛍光物質を紫外線で励起して不足する赤色領域を補う蛍光形が主流になり、効率と演色性が改善(Ra=40)されました。蛍光形は面発光となることでまぶしさが抑えられる反面、挟角な配光が必要な用途には不向きです。

点灯回路

図1-5. 高圧水銀ランプの点灯回路

放電管の電気的特性の特徴として、微分抵抗が負性となる点が挙げられます。つまり、放電管に定電圧を加えると電流が際限なく増加して瞬時に壊れるということです。高圧水銀ランプも放電管なので、動作させるには電流を一定のレベルに制限するバラスト(安定器)が必要になります。図1-5に代表的なバラストの構成およびランプの内部回路を示します。200V系ではバラストは単純なチョークコイルですが、100V系では電源電圧がランプの動作電圧より低いため、リーケージトランスで昇圧する構成になっています。バラストユニットの外観は牛乳パックくらいのサイズの金属缶(なぜかどれも灰色)で、中にチョークコイルや進相キャパシタが収められています。バラストは電柱上やライトポール内部など酷な環境に置かれるため、内部はシール材でポッティングされて放熱性と耐湿性が高められています。

放電管の片側または両側の主電極に隣接して設けられた始動プローブ(補助電極)には数十kΩの抵抗を介して対向電極の電位が加えられます。電源電圧では主電極間の絶縁を破壊するには足りないため、まずは最初に補助電極との間で放電を開始させるのです。補助電極には抵抗が挿入されているのでグロー放電となりますが、これにより放電管内にイオンが供給され、直ちに主電極間の放電が始まります。主電極間でアーク放電が始まるとランプ電圧が低下し、補助電極のグロー放電は停止します。これをプローブスタート方式と言い、高圧水銀ランプの標準となっています。

セルフバラスト水銀ランプ

図1-6. セルフバラスト水銀ランプ

高圧水銀ランプにはバラストを内蔵したタイプもあり、セルフバラストバラストレスの名称で販売されていました。セルフバラスト水銀ランプには高価なバラストが不要で、白熱ランプを差し替えて使えるという手軽さから広く使われてきました。これは、図1-6のようにバラスト抵抗(タングステンフィラメント)が放電管と共に外管内に収められたもので、バラスト抵抗は放電管と直列に接続されています。光色は水銀ランプと白熱ランプのカクテル光となり、演色性は大きく改善されます。しかし、抵抗ドロップバラストによるロスのため水銀ランプの低い効率がさらに低くなり、ハロゲンランプと同程度となってしまいます。100V系電源ではバラストによる昇圧ができないので、100V用ランプでは片側または両側の電極に予熱フィラメントを備えた特殊な構造の放電管を使うことで対応しています。

メタルハライドランプ

図2-1. 東京都心のメタルハライドランプ(2013)

高圧水銀ランプに代わり台頭したHIDランプの一つがメタルハライドランプです。水銀以外の金属にも照明に適したスペクトル線を持つものがあるので、それらを高圧水銀ランプに加えれば演色性や効率を改善できると当初から考えられていました。しかし、単体の金属はガラスの耐熱温度では十分な蒸気圧を得られないものが多く、蒸気圧の高い金属は高温下で石英ガラスを侵すなど、実現は困難でした。でも、金属をハロゲン化物(メタルハライド)の状態とすれば高い蒸気圧と低い反応性が得られるようになります。'60年代になるとランプメーカー各社から相次いでメタルハライドランプが発売されました。

メタルハライドランプの特性はそれの元となる高圧水銀ランプに近いため、既存の水銀灯器具で使用できるレトロフィットタイプが多くラインナップされています。一方、効率や演色性が良くなったことで用途が広がり、その特徴を生かした設計のランプも多数開発されています。メタルハライドランプは、HIDランプの中では最もバリエーションの豊富なタイプと言えるでしょう。日本ではなぜか白い光色が好まれるようで、街路灯ではメタルハライドランプや白色LEDが主流になっていて、次いで高圧ナトリウムランプとなっています。

メタルハライドランプでは封入物のブレンドにより、色温度、寿命、効率、演色性などランプの諸特性を制御することが可能です。これらの特性はある程度トレードオフの関係にあり、効率や寿命を重視したもの、演色性を重視したもの、また演出用としてのカラータイプなど多くのバリエーションがあります。図2-2にメタルハライドランプのスペクトルの例を示します。

図2-2a. メタルハライドランプ(高効率型)
図2-2b. メタルハライドランプ(高演色型)

構造

図2-3に典型的な石英管メタルハライドランプの構造を示します。アーク長は同じワット数の高圧水銀ランプより短くなっていて、より高い輝度が得られます。放電管両端のシリカコーティングは、輻射熱の反射で電極を保温して効率を高めるためのものです。外管内は真空または窒素封入で、真空の場合はゲッタで高真空が保たれるようになっています。外管の材質は中型(E26)以上のランプでは耐熱ガラスで、小型ランプでは石英ガラスが用いられます。

メタルハライドの蒸気は、アーク中心部では数千Kの高温により金属とハロゲンに分解し、金属原子としていくつかの強力なスペクトル線を放射することになります。そして、アークから離れると再びハロゲンと化合してメタルハライドに戻ります(これをハロゲンサイクルという)。また、メタルハライド分子からも多数のスペクトル線として放射されます。ハロゲンには反応性が比較的穏和なヨウ素または臭素が使われます。

図2-3. メタルハライドランプの構造

始動方法

メタルハライドランプの封入ガス圧は高圧水銀ランプより高めに設定されていて、火花電圧も高くなっています。このため電源電圧だけでは始動できず、ランプに高電圧パルスを与える必要があります。必要なピーク電圧は始動補助電極付き放電管では数百V、補助電極なしの放電管では3~4kVとなります。パルス電圧の発生には、ランプ端子を開閉することによるバラストのインダクティブキックを利用します。この開閉を行う装置をスタータ(始動器)といいます。スタータの設置形態や動作機構にはいくつかのバリエーションがあり、それに合ったランプと点灯装置の組み合わせが必要になります。

スタータ内蔵形
図2-4. 機械式スタータ

スタータがランプに内蔵されているタイプで、既設の水銀ランプ用灯具・バラストで使える手軽さが特徴です。スタータの構成は、機械式と電子式に分けられます。図2-4に示すのは機械式の一つで、グロースイッチを使用したものです。グロースイッチは蛍光ランプのスタータと同等のものですが、開閉電流が大きいため接点が溶着しにくいように強化されています。高電力ランプでは電流が過大(バラストや配線への負担)にならないようにするため、直列に電流制限抵抗が挿入されているものもあります。点灯中および消灯直後は、放電管の輻射熱でバイメタルスイッチが開いてスタータが切り離され、無用なスタータの動作を防止します。

機械式スタータには、

などいくつかの欠点があり、信頼性の低いものでした。その後耐久性の改善はあったものの、これにより海外では外部スタータ型が主流になっています。

図2-5. FECスタータ

図2-5に示すのが電子式の標準となったFECスタータで、'80年代に埼玉の岩崎電気で開発されました。FEC(Ferroelectric Capacitor)とは強誘電体セラコンのことで、その可飽和特性(セラコン特有の電束飽和特性)を積極的に利用して、スイッチング(電流遮断)素子として使用するのです。これによるパルス発生は普通のへたれセラコンでも確認できます。FECスタータは次に示すような特徴を持ちます。

これは機械式スタータの問題点を全て解消する画期的な発明と言え、海外とは対照的に国内ではスタータ内蔵形ランプが広く普及しています。

外部スタータ形

メタルハライドランプ専用として、始動器がバラスト内またはバラスト-ランプ間に設置されるタイプです(図2-6)。パルススタート型とも呼ばれて、図に示すようにランプ端子スイッチング(=大電流)を伴わないイグナイタ(パルス発生器)によって始動パルスを発生しています。海外では内蔵スタータの問題からか、外部スタータ形が主流になっています。また、小型化されたタイプのランプはスタータを内蔵するスペースが無いため、全て外部スタータ形となります。なお、電子バラストは全てイグナイタを内蔵となります。

図2-6. 外部スタータの構成
UVエンハンサ
図2-7. ランプに含まれる放射能

始動を容易にするため補助電極を設けると放電管の構造が複雑になり、小型化や諸特性の向上が難しくなります。このため、小型ランプのほとんどは補助電極なしとなっています。また、後述のセラミック放電管はその特徴を生かすため全て補助電極なしとなっています。これらの放電管では火花電圧が数kVとなっていて、低圧配線の耐えられる程度のパルス電圧では安定した始動が難しくなります。

気体の絶縁破壊は、電極間に存在するイオンが引き金となって引き起こされ、同じ気圧・パルス幅ならイオンが多い方が火花電圧は低くなります。通常は宇宙線によってガス原子がわずかにイオン化して存在するのみですが、何らかの方法でイオン化を促進すればランプの始動性が向上します。この目的でガスや電極に放射性物質が添加(図2-7)されていましたが、近年は放射性物質の使用が規制されるようになりました。

図2-8. UVエンハンサ内蔵ランプ

その代替手段として登場したのがUVエンハンサです。これは麦球くらいのサイズのUV放電管で、ランプ放電管と並列になって外管内に納められています(図2-8)。UVエンハンサの構造は内部単電極の放電管の外部に対向電極を設けたものとなっていて、ランプに加えられる始動パルスにより誘電体バリア放電を起こします。それにより発生した紫外線パルスが放電管内のガスをイオン化し、ランプの始動を助けるというわけです。

色シフト

図2-9. 色シフトを起こしたランプ(左下)

メタルハライドランプ特有の問題点として、発色を安定に制御するのが難しい(変色しやすい)ということがあります。これは封入するメタルハライドの調合で色などを自在に制御できる反面、そのバラツキにより発色のバランスが崩れやすいことによります。

個体差

放電管はガラス細工の工程で整形されるため、管内の形状を最適化することが難しく、個々の特性のバラツキも大きくなります。色のバラツキは多数並べて設置したとき目立ちますが、多くの照明では差支えのないものなので仕様の範囲とされています。

経時変化

メタルハライドは反応性が低いとはいえ、点灯中の高温下では石英ガラスを徐々に侵しながら消耗していきます。これによりメタルハライドのバランスが崩れて色シフトが発生します。多くは寿命末期に青緑色にシフトする傾向があるようです(図2-9)。これにガラスの浸食による失透も加わり、光束も低下します。メタルハライドランプの光束低下はHIDランプの中では大きい方で、定格寿命までに少ないもので20%、多いものだと50%も低下してしまいます。

取付方向

封入されたメタルハライドは点灯中すべて蒸発するわけではありません。多めに入れて飽和状態とすることで、寿命を通して蒸気圧をなるべく一定に保つようにしているのです。余分なメタルハライドは温度の低い部分(底部あるいはアークから離れた電極付近)の管壁に凝結し、ランプの取付方向(水平か垂直か)によって放電管の温度分布やメタルハライドの溜まる場所は変わります。液相のメタルハライドは色(黄~赤褐色)を帯びているものが多いため、光の射出方向によって光色が変わることになります。

このように、メタルハライドランプでは点灯中の放電管内に液体が存在します。それが発色・寿命・アークの安定性などに影響を及ぼすのを防ぐため、ランプによっては取付方向(垂直(上・下)・水平)が指定されています。

セラミック放電管

図2-10. セラミック放電管(3ピース)

石英ガラスよりも耐熱性が高くメタルハライドからの浸食にも強い放電管材料として、アルミナ(酸化アルミニウム)の使用が当初から考えられていました。動作温度を上げてメタルハライドの蒸気圧を高めることができ、効率が向上します。また、メタルハライドの消耗が抑えられることで、色シフトも改善します。

Thorn Lighting社によってセラミック放電管が実用化されてからは、このように各種特性が大きく改善されました。型番がCDM(Ceramic Discharge Tube Metalhalide)で始まるものや、商品名にセラが付くもの(セラメタとかセラルクスなど)はセラミック放電管を採用したランプです。

図2-10に典型的なセラミック放電管の例を示します。アルミナには融点がありガラス細工のように加工することができないため、アルミナ粉末をモールド・焼成したアルミナセラミックの部品を組み立てて作られています。これにより放電管の形状が精密に管理され、安定した性能を発揮できるようになりました。初期のタイプは、3または5ピースの部品を組み合わせた円筒状で、後に2ピース構成の球状のものが開発され、均一な温度分布によりさらに動作温度を高められるようになりました。

セラミック放電管は動作温度を高められるのですが、ガラス封止されたリード導入部は高温に弱いため、温度を低く保つようにリード導入部が細長く突き出した独特な形状を取ります。この低温部には余分なメタルハライドが凝縮して溜まるため、取付方向による発光色への影響も抑えることができます。メタルハライドランプでは、ウォームアップ中に赤くフラッシュすることがありますが、これは沸騰したメタルハライドの雫が放電管内に飛び散ることによります。セラミック放電管でこの傾向が強いのは、この構造による影響が大きいようです。

高圧ナトリウムランプ

図3-1. パリの旧市街を照らすHPSランプ(2014)

ナトリウムランプは、ナトリウム蒸気中の放電を利用したランプです。その原理は水銀ランプと同じくらい古くからありましたが、高温下ではナトリウムが石英ガラスと激しく反応するため蒸気圧を上げられず、当初は低圧ナトリウムランプとしての利用にとどまっていました。高圧ナトリウムランプ(HPSランプ)の実用化は、'60年代のGeneral Electric社による開発まで待つことになります。

高圧ナトリウムランプのランプ効率は低圧ナトリウムランプより劣るもののHIDランプの中では最も高いレベルで、タイプによっては効率・寿命ともにLEDに匹敵します。このため、経済性を重視する道路照明として広く利用されてきました。海外では街路灯としても徹底して使用されているので、現地へ飛んだとき上空から見た都市の灯が、日本のそれとは異なり真っ赤に見えるのがとても印象的です。日本ではなぜか白い光が好まれるためメタルハライドランプが多く採用されていて、街路灯としての高圧ナトリウムランプは経済性よりむしろ景観などの演出意図をもって採用される傾向があるようです。

図3-2. 高効率型HPSランプのスペクトル

高圧ナトリウムランプの発光スペクトルは、図3-2に示すように幅を持ったナトリウムD線に水銀のスペクトル線が加わわったものとなり、橙~白橙の光色(色温度1900~2100K)を呈します。演色性は低い(Ra=10~25程度)ものの、物体の色の判別は可能です。よく取り上げられるナトリウムD線と異なりスペクトル線の幅が広がっているのは、圧力幅といって高い圧力の下での原子同士の衝突や近接といった相互作用で光子放出過程が影響を受けるためです。D線ピーク付近のスペクトルの落ち込みは、アーク外縁のナトリウム蒸気による吸収線です。

構造

図3-3. 高圧ナトリウムランプの構造

図3-3に典型的な高圧ナトリウムランプの構造を示します。外管は耐熱ガラス(一部ソーダガラス)で、内部は高真空となっています。放電管には耐熱性・耐食性の高いアルミナセラミックが用いられます。アルミナセラミックはその後メタルハライドランプにも利用が広がっています。放電管の形状はメタルハライドランプとは明確に異なり細長いチューブ状となっています。放電管末端部の構造は各社毎の工夫が見られてバリエーションが多く、一般的には金属やセラミックのキャップがガラス封止されて、電極導入部の材料にはアルミナに近い熱膨張係数のニオブがよく使われます。

放電管封入物はナトリウムアマルガム(水銀とナトリウムとの合金)とキセノンとなっています。アルゴンでなくキセノンを使う理由は、伝熱性の低い重いガスを使うことで保温性を高めてロスを減らすためです。点灯中のナトリウム蒸気圧は0.1気圧程度となります。

始動方法

図3-4. スタータ内蔵形ナトリウムランプ

メタルハライドランプと基本的には同じで、スタータ内蔵型と外部スタータ型があります。

スタータ内蔵形

スタータがランプに内蔵されているタイプで、既設の水銀ランプ用灯具・バラストで使える手軽さが特徴です。高圧ナトリウムランプの機械式スタータはグロースイッチではなく、ニクロム線またはタングステンフィラメントのヒーターとバイメタルスイッチの組み合わせが多いようです。電子式スタータはFECスタータが標準となっていて、国内ではこれらのスタータ内蔵形ランプが主流となっています(図3-4)。

外部スタータ形

メタルハライドランプ同様に、海外ではこのタイプが主流となっています。また、スタータを内蔵できない小型ランプはすべてこのタイプとなっています。

ペニングスタート形

封入ガスに火花電圧を下げる特性を持つペニングガスの使用と近接導体との併用により、電源電圧で始動できるようにしたタイプです。ペニングガスにはネオンにアルゴンを添加したものが使用されます。しかし、ガスの保温性が低くなる(=熱伝導によるロスの増大)ため効率が低下するのが欠点です。

高演色型ナトリウムランプ

図3-5. 高演色型HPSランプのスペクトル

ナトリウムの蒸気圧を高めるにつれスペクトル線の幅が輝線・吸収線ともにさらに広がり、蒸気圧が1気圧程度になると白熱ランプに近い色温度(2500K)を呈した高い演色性(Ra≧80)を持つ光が得られるようになります。その反面、視感度の高い領域の吸収が増えるのと視感度の低い領域の放射が増えるためランプ効率は低くなり、高圧水銀ランプと同じレベルになってしまいます。高い蒸気圧とするため放電管の温度もそれなりに高くなるため、電極導入部は高温に耐えるように各製品で改良されています。

高演色型は歩道や店舗などにおいて白熱ランプに代わる照明として広く使われています。このように高演色型とそれ以外では主な用途が異なるため、高演色型以外は高効率型などと明確に分けられるようになっています。また、高彩度型といって、さらに蒸気圧を高めて赤成分の放射を強くし、食品売り場で食材の色を強調することを謳ったタイプもあります。

超高圧水銀ランプ

図4-1. 超高圧水銀ランプのスペクトル

高圧水銀ランプの圧力をさらに高めていくと、輝線スペクトルが広がる(圧力幅)ほかに白色光(連続スペクトル)も放射するようになります。これは、アーク中における水銀イオンと電子の再結合の際の制動放射と考えられています。点灯中の水銀蒸気圧が10気圧以上になるものが超高圧水銀ランプと呼ばれるようで、プロジェクタ用の小型の物では200気圧以上に達します。

図4-2に実際の超高圧水銀ランプの例を示します。照明向けの超高圧水銀ランプとしては'90年代末にPhilips社によって開発されたUHP(Ultra High-pressure)ランプが有名です。主な用途はビデオプロジェクタや舞台演出のムービングライトの光源です。プロジェクタ用の光源としてはメタルハライドランプ→キセノンランプ→超高圧水銀ランプと変化してきました。アーク長は極端に短く設定され、150Wのランプで1.2mm程度と光学設計上理想的な点光源となっています。

図4-2. 超高圧水銀ランプ

自動車用HIDランプ

図5-1. 自動車に普及したHIDランプ

HIDランプは、車両のヘッドライト用としてそれまでのハロゲンランプに代わり'00年代から広く採用されるようになりました。一般家庭に普及した唯一のHIDランプと言えるでしょう。これらはディスチャージヘッドランプとかキセノンヘッドランプとも呼ばれていて(どちらも表現としては正しい)、実体は小型(35Wが標準)のメタルハライドランプです。ただし、自動車用ランプとしての要件である瞬時点灯を満たすため、ランプや点灯装置に特別な配慮がなされています。

瞬時の再点灯

対向車にサインを送るため、パッシング(ヘッドライトを点滅させる)という操作があります。これを実現するには、たとえ消灯直後で放電管圧力が高い状態でも瞬時に再点灯(ホットリストライクという)しなければなりません。これには一般用HIDランプの数kV程度のイグニッションパルスでは不十分です。そもそも、自動車用HIDランプはキセノンを高圧(5気圧程度)で封入していて火花電圧が高いので、コールドスタートでも高いパルス電圧が必要になります。このため、25kV程度のパルスを発生できる強力なイグナイタが使用されます。イグナイタの配置形態には、バラスト内蔵型、中間型、またはランプホルダ内蔵型の三通りがあります。バラスト内蔵型や中間型の場合、ランプまでの配線には特高圧パルスに耐える専用の高圧電線が必要になります。

一般のHIDランプは始動の際にホットスポットが安定するまで何回か点滅(立ち消え→再イグニッション)を繰り返すことがあります。しかし、ヘッドライト用としてはそのような動作のもたつきはダメなので、ブースト回路(コンデンサのチャージによる補助で十数Aの突入電流を流す)によって確実にホットスポットを形成してアーク放電を安定させます。このように、強力なイグナイタとブースト回路によって常に瞬時始動できるようになっているのです。

瞬時の光束立ち上がり

図5-2. 自動車用HIDランプ(H3マウント)

コールドスタートの場合、放電管が温まって水銀やメタルハライドの蒸気圧が上がるまでは十分な光出力が得られません。このウォームアップ時間を短くするため、図5-2に示すような熱容量の小さな小豆サイズ程度の極小放電管が使われていますが、それでも熱平衡までは30秒程度を要し、実用には全く足りません。例えば、ECE規格では点灯から1秒で25%以上、4秒で80%以上(それぞれ定格比)の光束が必要とされているので、普通のメタルハライドランプでは無理なことが分かります。そこで立ち上げ時の光束を補うのがアルゴンの代わりに高圧で封入されたキセノンで、点灯直後はキセノン放電ランプとして動作するのです。これが自動車用HIDランプがキセノンヘッドランプとも呼ばれる理由です。このため、ウォームアップに伴い、発光色が青白(キセノン)→青緑(水銀)→白(メタルハライド)と変化します。ウォームアップ中は定格の倍以上の電力を投入するように制御され、キセノンの発光効率の低さを補うのと同時に素早いウォームアップを実現しています。

低圧ナトリウムランプ

図6-1. トンネル照明の低圧ナトリウムランプ(2023)

これはHIDランプではありませんが、その用途からHIDランプ同様に扱われてきたので取り上げておきます。日本では'80年代までは道路照明としてもよく見かけたのですが、現在はトンネルやアンダーパスなどの閉鎖空間以外では見られなくなってしまいました。低圧ナトリウムランプは需要の縮小により、製造は長らくPhilipsのイギリス工場のみ(他のメーカーにもOEM)となっていましたが、そこが2019年に閉鎖したことで全世界で一斉に終了となりました。交換ランプは流通在庫のみで、消えるのは時間の問題と言えます(※)。

(※)もう終わりと思ったら、中国のメーカー🔗がランプとバラストの製造を開始しました。低圧ナトリウムランプは一般照明だけでなく特殊用途でも使われています。それは他のランプでは絶対に置き換えできず、無くなっては困る分野なのです。このため、もうしばらくは供給が続きそうです。

図6-2に低圧ナトリウムランプの構造を示します。照明用としての低圧ナトリウムランプは、国内では35W/55W/90W/135W/180Wの5種類の共通規格しかありません。放電管はU字型の耐熱ガラス製で、管内には金属ナトリウムとペニングガス(Ne+1%Ar)が1/100000~1/200000気圧程度で封入されています。照明用放電ランプとしては唯一水銀を使用していません。電極はタングステンコイルにバリウムエミッタを保持したもので、蛍光ランプのそれに似ていますが通電して予熱するわけではありません(エミッタ活性化のため製造工程でのみ通電される)。真空放電ではHIDランプとは異なり電極のホットスポットは不明瞭です。

放電管温度の最適値は260℃で、放電管の大きな低圧ナトリウムランプではこれを保つため保温性の良し悪しは特に重要で効率に大きく影響してきます。外管内は放電管の保温のため高真空になっていて、内側には赤外線反射膜(酸化インジウム)が蒸着されて保温性をさらに高めています。

放電管の内側は酸化ホウ素でコーティングされ、ナトリウムとの反応(黒化)を防ぐようになっています。ナトリウムは放電管のディンプル(比較的低温で凝結しやすい)に溜まり、ナトリウム蒸気が管内に均一に行き渡るようになっています。ディンプルの無いタイプでは、反射膜の厚さを長手方向で変えて放電管温度を均一にすることで、ナトリウム蒸気の分布を制御しています。点灯中はナトリウムは液相となっているため、ナトリウムの偏りを防ぐためランプの取付方向には制限があり、水平取り付け(±20°)が基本です(35/55Wランプは水平から下向き(+20~-90°)も可能)。

図6-2. 低圧ナトリウムランプの構造
図6-3. 低圧ナトリウムランプのスペクトル

低圧ナトリウムランプの出力は、図6-3に示すようにほぼナトリウムD線(590nm)のみから成る琥珀色の光となります。演色性は皆無(Ra=-44)で、物体の色の判別は不可能です。これは欠点であるとともに、トンネルなど煙霧の濃い雰囲気での視認性の高さや、LEDを超える最高レベルのランプ効率といった利点にもなっています。効率が高い理由は、スペクトルが人の目の感度のピーク付近に集中しているため、ルーメン値が高くなるからです。

点灯直後はナトリウムの蒸気圧が低いためナトリウムのスペクトルは殆ど現れず、ネオンの赤いスペクトルがほぼすべてを占めます。やがて蒸気圧が上がってくると徐々にナトリウムのスペクトルが強くなり、ウォームアップ完了するとほぼすべてを占めるようになります。低圧ナトリウムランプは放電管が大きいためウォームアップに10分以上を要するものの、HIDランプとは違ってホットリスタートが可能なので、瞬停があってもすぐに照明を回復できます。

真空放電ランプのアークの温度はHIDランプより高く10000K程度となりますが、プラズマが希薄でアーク長当たりの電力は小さい(1cm当たり1W程度)ものとなります。このため、低圧ナトリウムランプのアーク長は長く設定され、光束の割には眩しさを感じない柔らかな光となります。

点灯回路

当初はHIDランプと同様にイグナイタで始動していましたが、やがてバラストの二次開放電圧で直接放電を開始する方式が主流になりました。例えば180Wのランプのブレークダウン電圧は数百Vとなりますが、そのような高電圧は危険なのでランプ電圧は一定以下に抑える必要があります。このため、リードピーク式のバラストが使用されます。リードピーク式バラストは、リーケージトランスの2次巻線下の鉄心に狭隘部が設けられ、特定の位相で磁気飽和して磁気抵抗が変化する構造になっています(図6-4)。これにより、バラストの二次電圧は波高率の高い尖った波形となり、実効値を低く抑えつつピーク電圧を高めているのです。これ以外にもランプ電流の導通角が広がることによるランプ力率改善などのメリットがあり、リードピーク式バラストは蛍光ランプ用にもよく使われています。

図6-4. 低圧ナトリウムランプ点灯回路

HIDランプの安全対策

HIDランプは白熱ランプとは異なり、その運用においてHIDランプ特有の危険性を伴うため扱いには注意が必要です。一つは定常状態におけるもので、もう一つは異常状態におけるものです。

紫外線対策

定常状態における危険性として、紫外線放射が挙げられます。照明用HIDランプは水銀蒸気中でのアーク放電を利用したランプであるため、放射束には人体に対して有害な紫外線が豊富に含まれます。発生した紫外線はすべて放射されるわけではなく、蛍光物質で可視光に変換されたり外管ガラスに吸収されたりして多くは遮蔽されます。それでも対策の無いランプではUV-Aの多くとUV-Bの一部は放射されてしまいます。紫外線放射に対しては次に示すようなランプ自体および運用においた対策が取られています。

距離による減衰

照度は光源からの距離の自乗に反比例します。つまり、ランプからの距離を十分とることにより問題のないレベルまで減衰させようというわけです。水銀ランプの取説には近距離での作業を避ける旨の注意書きがあるように、だてに高所に設置されているわけではありません。

灯具シールドガラス

灯具の前面ガラスは万一ランプが破損した場合に落下するのを防ぐ役割を持ちますが、この前面ガラスに紫外線遮蔽機能を持たせる方法です。

紫外線反射膜

外管の内側に紫外線反射膜を蒸着したタイプです。チューブラ型のメタルハライドランプによく見られ、破裂対策とともに開放型器具での使用に対応していることが多いようです。

紫外線吸収ガラス

G12/G8.5/RX7マウントなどの小型メタルハライドランプは外管が石英ガラスとなるため、外管ガラスには紫外線吸収材料が添加されます。ただし、古い製品では無対策で強烈な紫外線を放射するものがあるので注意が必要です。UVカット型では、紫外線放射が多くを占める点灯開始時に外管ガラスが青い蛍光を発するのでよく分かります。

破裂対策

放電管圧力の高いHIDランプでは点灯中にごく稀ではありますが放電管が破裂することがあります。主な原因は製造上の欠陥やメタルハライドによる管壁の浸食などで、外部要因としてはバラストの故障などがあります。特にメタルハライドランプでは点灯中の放電管圧力が数気圧に達するため、放電管の破裂の影響で外管が割れることもあります。ガラスの落下は怪我や火災の原因となるため、このような異常状態でも周囲に危険を及ぼさないようにする必要があります。これについては、灯具とランプそれぞれで対策がとられています。破裂対策されたランプは同時に紫外線対策も施されているものも多く、開放型器具での使用が可能となります。

灯具シールドガラス

灯具を密閉型として前面ガラスで保護する方法で、メタルハライドランプは密閉型器具での使用が基本となっています。密閉型とすることでリフレクタの汚れの軽減や前面ガラスによる紫外線防護などの利点もあります。欠点はランプの交換の際に灯具の開閉が必要なためメンテナンス性が悪くなる(ランプ交換器が使えない)ことです。

外管コーティング

外管の外側をフッ素樹脂でコーティングして外管が割れた場合でもガラスの落下を防ぐタイプで、交換中に落としたとかフォークリフトをぶつけたとかといった事故においてもガラスの飛散を防止できます。水銀ランプ互換タイプに多く見られましたが、リサイクル性の点から内部シュラウド型に移行してきています。

内部シュラウド

中型から大型のランプに幅広く採用されているタイプで、放電管を丈夫なガラスの筒で覆って放電管の破裂から外管を保護します。

三重管

外管の外側をさらに保護管で覆ったタイプです。小型ランプに多く見られます。

図7-1. HIDランプの破裂対策

ランプベース

ランプベースは口金とも呼ばれ、ランプを灯具に取り付ける固定具としての役割を果たすのと同時に電気的に接続するコネクタとしての機能も併せ持ちます。灯具側でランプベースを受ける部品はランプソケット(受け口)と言い、取り付けるランプの口金に対応したものが必要になります。次に代表的なタイプを示します。

E型

図8-1. E型口金

エジソン型とも呼ばれるねじ込み式の口金です。最もよく見かけるのはこのタイプでしょう(図8-1)。形式表記は呼び径の頭にEを付けたもの(例えば12mm径ならE12)になります。特殊型ではEの後にバリエーションを示す文字が付けられます。

E39/40MOGULベースとも呼ばれ、HIDランプでは100W~150Wを境にこれ以上の大型ランプに使われます。呼び径が国内と海外で異なりますが、これらは同じものです。
E26/27MEDIUMベースとも呼ばれ、HIDランプでは100W~150Wを境にこれ以下の中型ランプに使われます。呼び径が国内と海外で異なりますが、これらは同じものです。
E17小型白熱ランプや蛍光灯のグロースタータによく使われます。HIDランプには使われません。
E14日本ではあまり見かけませんが、海外ではシャンデリア球によく使われています。また、バリエーション(EZ14)が一部メーカの小型メタルハライドランプに使われています。
E12常夜灯など10W以下の小型白熱ランプに使われています。HIDランプには使われません。
E11ハロゲンランプによく使われます。HIDランプには使われません。
E10懐中電灯の豆球および表示器やスイッチの照光ランプに使われます。また、バリエーション(EU10)が一部メーカの小型メタルハライドランプに使われています。
E5照光ランプ用で、一般照明用としては使われません。

B型

図8-2. G型口金

バヨネットロック型。E型に比べ取付けが簡単確実で、振動でゆるまない利点があります。日本では自動車用や照光用くらいしか見かけませんが、海外の地域によっては家庭用電球にもよく使われています。低圧ナトリウムランプの口金もこのタイプです。形式表記は呼び径の頭にBを付けたもので、一般照明用としてはB22とB15があります。下部接点は1極と2極があり、1極ならs、2極ならdを呼び径の後に付けますが、省略される場合もあります。AC電源用では2極が普通で、口金が非充電となりE型に比べて感電しにくくなっています。

G型/P型

ピン型端子を持つタイプは全てG型/P型となり、最もバリエーションの多いタイプとなります(図8-3)。形式表記はピンの間隔の頭にGを付けたもの(例えば13mm間隔ならG13)になります。構造上のバリエーションはGの後に識別文字を付けます(GX8.5など)。締結方法には板バネや爪によるものとツイストロック機構のバリエーションがあります。また、特に小型軽量なランプではピン接点の摩擦だけで保持されます。

R型

図8-3. R型口金(RX7s)

棒形ランプの両端に電極を設けたタイプがR型で、HIDランプのほかハロゲンランプにも使われています。形式表記は口金の径の頭にRを付けたもの(例えば7mm径ならR7)になります。ランプを両端から板バネの電極で挟み込む形で固定するため、脱着が容易です。なお、口金の形状だけでなくランプの長さも合わせる必要があるので注意が必要です。

各種光源の効率

図9-1. 各種光源の変換効率

図9-1に各種光源の変換効率をグラフに描出してみました。Y軸は変換効率[lm/W]、X軸はランプ定格電力[W]です。グラフを見てまず分かるのは、LEDランプ以外のどの光源も右上がりのグラフになっていることです。これは、電力が大きくなるほど効率が高くなるなっていることを意味しています。これらのランプは超高温下における光の発生を利用するもので、大規模化によって熱損失の割合が減るからです。それとは逆に、常温下のルミネセンスであるLEDランプは全体的に高効率であるものの、スケールメリットが全くありません。そればかりか、大電力化すると熱に弱いLED素子の冷却のコストが急激に増大するため、LEDランプは中小型なものを多数設置するのがうまい使いかたと言えるでしょう。

さて、個別の光源について見てみましょう。突出して高い効率を示しているのが低圧ナトリウムランプで、人工光源中最高レベルと言われるのもうなずけます。また、効率の高いグループ(SOX-E)と低いグループ(SOX)に別れているのが分かります。SOX-Eタイプは、最後の技術革新(IR反射膜の改良およびランプ電流の最適化)で効率が引き上げられたラインナップですが、バラストの互換性が無く日本では普及しませんでした。

高圧ナトリウムランプも効率の高いグループと低いグループに分かれます。高い方は高効率型、低い方は高演色型となり、用途は全く異なります。

メタルハライドランプは中庸な効率で、小型から大型まで最も広く使われているHIDランプです。

蛍光ランプも効率の高いグループと低いグループに分かれます。高効率なものはFHFランプで、インバータ駆動専用とするとともにランプ電圧を高めることで効率アップを図っています。

水銀ランプはHIDランプの中では最低の効率で、意外にも蛍光ランプよりはるかに低いことが分かります。効率の低いグループはバラストレスランプで、もはやハロゲンランプと同じレベルです。水銀ランプは日本では水俣条約により2021年から製造禁止となっています(メタハラ、HPS、CFLなどの水銀使用ランプは対象外)が、その理由は水銀使用よりもこの際立った効率の低さによるとも言えます。実際、欧米での水銀ランプ規制の理由は「電気の無駄だから」となっています。